編集者だからこそできる
地域再生とは

編集者だからこそできる地域再生とは

ポマーロが手掛ける地方活性化プロジェクトの第2弾として、明日香村(奈良県高市郡)のふるさと納税の企画づくりやブランディングに携わることになった編集者の中沢明子さん。今回のプロジェクトに対する思いや展望をインタビューさせていただきました。

プロジェクト参加へのきっかけは
日本の同質化に対する問題意識

── まずは、中沢さんのご経歴を教えてください。

「もともと学生時代に『フリッパーズ・ギター』というバンドの同人誌をやっていて、それが一部で有名になり、大学時代から少しライターの仕事をしていました。大学卒業してからは、大手出版社系の編プロに入り、主に文芸誌と大手出版社の冊子の編集を7年やって、2000年に独立。独立後は、もともとの大手出版社系列の仕事が多かったんですが、途中からジャンルも広がっていきました。ファッション、論壇、ビジネス、そしてキャリアの出自ともいえる音楽。ただ、柱はエンタメで芸能人のインタビューです。あと、文系学者のインタビューも多いです。ライフワークとして自分の本も出しているので、それも並行してやっています。基本的に、ライターの仕事のほうが比重は大きい。いろんなジャンルをやっているため、いつも説明に困りますし、仕事をする編集者さんによってイメージも違うと思います(笑)」

── そんな中沢さんが地方に興味をもたれたきっかけを教えてください。

「私が学生の頃、30年くらい前はショッピングモールといった商業施設は、東京にはなかったんです。パルコなどはありましたが、今で言うショッピングモールとは立ち位置も内容も異なります。私は東京の出身ですが、東京は意外と「これを買うならあそこ」というような買い方で、デパートは別として、一か所でいろんな買い物を済ませることはありませんでした。それが2006年に、たまたま埼玉県与野市のイオンモールに行く機会がありました。そのときに、「そうか、地方の人はひとつのところで完結してモノを買うんだ」と知ったんです。当時は地方へ仕事で行く機会も多かったのですが、大きな駅の近くでの仕事が主でした。ですから、寂れた駅前の商店街や百貨店を目の当たりにしていたこともあり、若者はどこで買い物をしているのか疑問でした。けれど与野市のイオンモールに行って、「なるほど、モールで買っているのか」と体感してわかったんです。それから気づくと、各地にイオンモールができ始めて、そのモールも進化していった。買い物はすごく便利になって、東京に来なくても買えるものもたくさん増えました。買い物に関しては、東京と地方の格差が縮まって均質化していく。これが地方に興味をもったはじめのきっかけでした」

明日香村・森川裕一村長を囲む、中沢明子さん(左)と当社編集プロデューサー・澄川恭子。この2人で地域創生に取り組む。

明日香村・森川裕一村長を囲む、中沢明子さん(左)と当社編集プロデューサー・澄川恭子。
この2人で地域創生に取り組む。

── ショッピングモールがきっかけとは意外でした。

「2015年以降になると、そのモールが東京の駅近くに逆輸入されていき、地方の消費文化が東京にも広がっていった。はじめはこの現象が面白いと感じていました。一方で、それは日本が同質化していくことを意味していて、それがいいのか悪いのか判断は難しいところですが、各地方の特徴がどんどん見えづらくなっているのは明らかでした。以前からずっとこういう問題意識もあって、今回のプロジェクトに参加したいと思ったんです」

編集者の視点で明日香村の商品が
魅力的に見えるストーリー作りを

── 特徴が見えづらくなっているというお話ですが、その点で明日香村を訪れてみて実際の印象はいかがでしたか?

「“日本はじまりの地”として、景観が守られている尊さを感じました。最近諸事情でビニールハウスを許可しているみたいなのですが、それでもなるべくしないように配慮されている。棚田もとてもキレイ。1000年前からこの景色は変わらないんだと考えると、感銘を受けます。東京をはじめとして都会が大きく変わっていくのもすごいですが、全然変わらないのも素晴らしい価値ですごいこと。コンビニもひとつしかないですし(笑)」

明日香村の変わらぬ景観を表すような棚田。

明日香村の変わらぬ景観を表すような棚田。

── 1000年前から変わらない景色、聞くだけで興味が湧きます。

「はい。あとは、意志を持っている人がたくさん住んでいる印象を受けました。ご紹介でお会いした方は、奥明日香と言われる、明日香村の中でも奥まった場所に立つ古民家を自ら改修して住んでいらっしゃいました。現代的な便利さとは一線を画した暮らし方です。生き生きと楽しそうだったのが、とても印象的でした。ちゃんとお話ししたのはその方だけですが、他にもカフェをやられている方やアーティストの方なども、決して便利とは言えない場所に住んでいらっしゃった。そうした不便を楽しめるひとたちが、ある種の理想の暮らしを実現できる場所なのだと感じました」

── ふるさと納税では、主に農作物などを取り扱うことになると思います。モノに関しては、いかがでしょうか。

「野菜や苺など、農作物自体は魅力的なのですが、見せ方に課題を感じています。写真のクオリティや枚数、説明の文章など、それは早急に改善していきたいですね。あとは、加工品のパッケージデザインや、返礼品の組み合わせもまだまだブラッシュアップできると考えています。先日、明日香村へ訪れた際には、カフェに置いてあった可愛いパッケージの“映える”サングリアをはじめ、返礼品にできたらいいなと思うものもいくつか見つけました。とある生産者さんからは、すでに「もっと別の組み合わせがよければ言ってください」と声をかけていただきましたし、ちょっとずつ絵が見えてきている部分もあります。いきなり新しい試みを次々打ち出す前に、役場の皆さんの手をなるべく煩わせないようにしつつ、とにかくこちらでできる施策から、早く動きたいと考えています」

── ふるさと納税を進めていく上で、目標にしていることや指標はありますか?

「ふるさと納税は、肉・野菜・果物・ジャムなどを扱う地域が多いので、そこをどう差別化していくかが難しい。ですから、明日香村というキーワードに引っかかってくれた人に、明日香村を応援してもらう、明日香村の野菜を買ってもらえるような魅力的なストーリーを作っていくことが大事だと思っています。お肉が欲しいならたくさんライバルはいる。ジャムだって同じ。明日香村のジャムを買うのは、ジャムが欲しいという気持ちと明日香村を応援したいという気持ちの両方が必要です。いろいろな地域のライバル商品があるなかで、何とか買いたい気持ちが盛り上がり、明日香村や明日香村の生産品の魅力がしっかり伝わるページ作りをするというのが目標ですね」

── 編集者にとって、地域再生は新しいチャレンジのひとつだと思います。編集者の可能性について、どうお考えですか?

「編集者の仕事は記事を作るだけではありませんよね。編集者の俯瞰力や加工力、物事の捉え方や編集者の視点は、ニュースやファッションを記事にする仕事以外に、街づくりや商品力を高める点にも活かせると考えています。私は以前から、消費がテーマの拙著の中で地域再生やまちづくりもテーマにしていたので、机上の空論ではなく、本当に役に立てるのかというチャレンジですね。今回のふるさと納税に限らず、地域再生プロジェクトの様々なところで、編集者の能力はきっと役に立つと思っています」

Profile

中沢明子

中沢明子/Akiko Nakazawa
なかざわあきこ■ライター・編集・出版ディレクター。編集プロダクションを経て、2000年に独立。女性誌、カルチャー誌、ビジネス誌、論壇誌、webメディアと幅広い媒体、ジャンルで執筆&編集。インタビュー取材の依頼が特に多く、延べ2000人以上を取材。また、興味があるテーマ、人物の書籍を版元選びからトータルのディレクションや、最近は企業によるオウンドメディアのアドバイザーも手掛けている。著書に『埼玉化する日本』(イースト新書)、『遠足型消費の時代:なぜ妻はコストコへ行きたがるのか?』(共著/朝日新書)がある。現在、次作を執筆中。

[編集後記]

地域再生に興味をもったきっかけは、埼玉県のショッピングモール。しかも30年も前から地方に対しての問題意識があったという話を聞いて、素直に驚いた。フィールドワークとして、実際に埼玉県にも住んだというから、さらに驚いた笑。アクティブな行動力と視点が、今回のチャレンジに実を結んだのかもしれない。中沢さんなら、その視点で、明日香村の魅力をきっと再発見してくれるだろう。明日香村のふるさと納税がどう変わっていくか、今から楽しみだ。

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