「アウトプットは最大のインプット」
anan元編集長がnoteに込めた想い

「アウトプットは最大のインプット」anan元編集長がnoteに込めた想い

『anan』の元編集長で、現在はフリーランス編集者の能勢邦子さん。能勢さんは、2020年7月からnoteに「編集力」について書き始めました。そして、2021年3月、それを一冊にまとめた『なぜか惹かれる言葉のつくりかた』を上梓します。なぜ、能勢さんはnoteに「編集力」を書き起こしたのか。その理由から出版に至る経緯、アウトプットの大切さについて語っていただきました。

編集者が求められていても、
編集力は理解されていない

── まずは、能勢さんのご経歴を教えてください。

「新卒で出版社のマガジンハウスに入り、30年間雑誌や書籍の編集に携わりました。創刊間もない『Hanako』に始まり、『anan』、『Tarzan』、『POPEYE』の副編集長、その後『Casa BRUTUS』、『Hanako』の副編集長、『anan』の編集長を務め、書籍やDVDもつくったりしました。カスタム出版部という部署では、企業のメディアをつくったりもしました。10くらいの部署を各3年ずつまわり、バランスよく経験させていただき、2018年にマガジンハウスを退社しました」

── 辞めてからは、どういったお仕事をされているのでしょうか?

「いくつかの企業のWebメディアの立ち上げやディレクション、ウェブに限らず新商品のプロモーションのお手伝いをしたり、コンテンツにまつわるもの全般を手がけています。年齢的にも、編集という仕事は、潰しが効かない仕事だと思っていたのですが、意外と幅広く声をかけていただけました」

── 能勢さんは、編集者のセカンドキャリアについて、どうお考えですか?

「実は、会社を辞めるにあたり、私は具体的なビジョンがないまま辞めてしまったんです(笑)。編集者は資格があるわけでもないですし、何か見せられるものがあるわけでもないので、なかなか難しいと思っていたのですが、世の中のビジネスが本当に編集を求めているんだと、多くのニーズを感じました。編集が入ることで見違えるビジネスシーンは、いくらでもある気はしています」

── noteにも具体的なビジョンがないまま、辞めたと書かれていました(笑)。

「マガジンハウスで副編集長も編集長もやって、やり尽くした感はありました。だったら、マガジンハウスではできないこと、自分がやりたいものをやってみようと、まだまだエネルギーがあるうちに、外に出ようと考えたんです」

── そして、2020年7月から「編集力」をテーマにしたnoteへの投稿が始まります。なにかきっかけはあったのでしょうか?

「先程話したように世の中で編集が求められてはいるものの、ビジネスの世界では、意外と「編集力」というのが理解されていないと感じました。編集と言っても、クライアントが「何を編集と考えているか」、本当にバラバラなんですね。「セミナーをやるからサマリーを書いて、それをCMSに入力して」って。たしかにサマリーも書くし、CMSにも入力はするけど、それだけが編集ではないんだよって。編集が何かってことが、まず認められてない。もっと上手に編集者を利用してほしい。それに、編集力とは特別なことではなく、考え方の問題であって、私は誰にでも身につく力だと思うんです。その考え方を会得すれば、編集者への仕事の発注の仕方も変わるだろうし、何をやりたいかも伝えやすくなる。編集力を考え直したいと思い、コロナ禍で家にいる時間が増えたこともあってnoteに書き始めました」

── 発信先として、noteを選んだ理由はあったのでしょうか?

「noteに興味があったのと、一度使ってみたかったからですかね(笑)」

── そのnoteには、もともと全30回で「編集力」をテーマに書き上げる予定だったと書かれていました。

「そうなんです。私の中では、コンテンツのつくり方として企画力・取材力・発想力、コンテンツの見せ方として表現力・文章力・デザイン力を各5回、全30回に分けて書こうと考えていました。しかし、意外と読まれないと感じていた矢先、「もっと“言葉に特化したもの”で本を出しませんか」と、10月にサンマーク出版の方から声をかけていただきました」

── それが、『なぜか惹かれる言葉のつくりかた』の出版につながるのですね。

「当初は、6つの力をnoteに満遍なく書こうとしていましたが、担当の編集者さんからは、読者がいま必要としているのは、「バズる言葉」や「売れる言葉」、「読まれる言葉」のつくり方と伝えられました。具体的なニーズや切り口を編集的視点で提案していただいたことで、noteに書いていたことに加筆し、『なぜか惹かれる言葉のつくり方』を書き下ろしました。タイトルに関しても、マーケティング思考ではなく、地に足ついた誠実なものでと相談しつつ、私が本の中で使用してた「惹句」という言葉の「惹」を生かして、担当編集者さんが最終的に決めてくれました」

『なぜか惹かれる言葉のつくりかた』の表紙

『なぜか惹かれる言葉のつくりかた』の表紙

── 著書では、言葉をつくるテクニック面が紹介されている一方で、「言葉に誠実に向き合う」など、“誠実”、“想い”という言葉を多用されているのが印象的でした。能勢さん自身は、この一冊をどういう想いで書き上げられたのでしょうか?

「今までの自分を振り返ってみても、“想い”ありきなんですよね。この特集がしたい、ここを紹介したい、誰に取材したいとか、そういう想いありきで仕事を進めてきました。でも、そういう想いがないまま発信するメディアや、はじめはあっても色々な人の手を通ったり、外へ発注するうちに想いが伝わらなくなってしまっているものがあちこちにある気がしていて。ものづくりって想いを持ってつくることだよね、まずはその原点に帰ろうというのが一番言いたかったことなんです」

アウトプットは最大のインプット

── 著書の中では、アウトプットすることの大切さも書かれています。能勢さんはnoteにアウトプットすることで、本の出版にも繋がりました。

「すごい大事だと思います。例えば、私は映画が好きでよく観たりするんですが、前に観たことあるものをまた観てしまったりする(笑)。これはよくないと思い、どんなにつまらない作品でも、ストーリーと感想を1行でもメモするようにしました。これもアウトプットだと思うんですよね。このメモは誰かに見せるものではないけれど、映画を見た感想1行メモすることで自分の中に残る。アウトプットといいながら、メモすることも人に話すことも、頭に入れるための最大のインプットなんですよね」

── “アウトプットは最大のインプット”、すごくわかります。

「実際、私が編集力をnoteに書き始めたのも、書くことで整理されるから。編集の仕事って、言葉にならない暗黙知の部分が大きいと思うんです。それをnoteに書くことで、まとめられたし、自分にインプットできた。時々編集について、講義のような人前で話すことがあるのですが、書いたことがやっぱり役に立つんですよね。アウトプットは、必ずしもSNSとか人の目に触れるところじゃなくても、自分で書くことで整理されて定着する。今の若い人とか、よくインプットが足りないと言って、すごい勉強されてますよね。勉強なんてしなくていいから、実際書こうよ、実際出そうよ、実際動こうよって感じます」

能勢さんのnoteのトップ画面。noteでのアウトプットも定期的に行われている

能勢さんのnoteのトップ画面。noteでのアウトプットも定期的に行われている

── 能勢さんはいまの編集業界をどう見られていますか?

「編集者って意外と横のつながりがないですよね。マガジンハウス社内でもそうでしたが、編集者同士って何かしらライバル意識があったりする。編集者同士がチームを組むこともあまりないですし。編集者には、絶対人に譲れないっていうネタはあるかもしれないけれど、編集の考え方について言えば、それはもう独占するものではなくて、むしろシェアしてアウトプットすることで、自分のためにもなるし、編集業界全体の存在意義を上げてくれると思うんですよね」

── 編集業界の存在意義を上げる上でも、これからの時代、どんな編集者が必要とされるとお考えですか?

「『Takram』の田川欣哉さんが、よく“BTC型”のチームをつくりましょうと提言されていて、まさにこれだと思うんです。Bがビジネス、Tがテクノロジー、Cがクリエイティブ。編集者個人にも、ビジネスもテクノロジーもクリエイティブもなくちゃいけない。年齢とか、編集者だからといって、テクノロジーまったくわからないとかはダメだと思うんですよね。HTML全部書けるとかではなく、テクノロジーでできることできないことを最低限知る必要はあるし、ビジネスセンスやお金の感覚もやっぱり持ち合わせなくちゃいけなくて。その上で編集者は、ウェブや紙をつくるということだけじゃなく、人から何かを引き出す取材力だけの仕事があってもいいし、表現や発想の部分だけを活かした仕事があってもいい。編集者の概念がもっと自由に行き来できるといいですよね」

Profile

能勢邦子

能勢邦子/Kuniko Nose
のせくにこ■『anan』元編集長。『Hanako』『POPEYE』元副編集長。2018年まで約30年間、マガジンハウスで雑誌や書籍の編集に携わり、話題作を次々に生み出す。担当した『ザ・トレーシー・メソッド』はミリオンセラーに。現在はコンテンツディレクターとして、編集・執筆・WEBメディアのディレクション、コンテンツマーケティング、出版プロデュースを行う。学習院秦々会「学習院さくらアカデミー」講師。著書『なぜか惹かれる言葉のつくりかた』(サンマーク出版)発売中。

[編集後記]

なぜか惹かれた。たまたまnoteのサイトを開いたら、能勢さんのnoteを知り、そこで読んだ編集力の話に惹かれた。後日書店へ行くと著書を発見。著書を読んで、やっぱりこの人に話を聞いてみたいと惹かれた。ご本人とお話して、“なぜか惹かれた”のがわかった。能勢さんは言葉に“想い”を乗せているからだ。ものづくりに対する想い、アウトプットに対する想い、編集業界への想い。「世の中には想いのないものが多い」、その言葉に改めて自分のアウトプットを考え直す機会になった。想いが人を惹きつける。それはなぜかではなく、あきらかだった。

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